フラッシュバック・スペインの about 2 より抜粋

(2003年に通算20年以上生活したスペインから日本に帰国。翌年ホームページで発表した『フラッシュバック・スペイン』の about より)

ここでは about 2 で引用した2008年頃のブログと、2015年の追記から抜粋します。

2008年頃のブログより: 

「…大人になってからの人生の3分の2(2003年当時)を過ごしたスペインで培ったモノサシは、そう簡単には変えられない。
帰国当初に感じた日本社会のいろいろな矛盾は5年経った今も殆ど変わらないか、むしろ時間が経つほど、日本社会の閉塞感が増してるような気もする…」

「日本では最近昭和レトロなどと言われて、昭和が一種のブームのようだ。
今と比べると格段にモノが少なく貧しい社会だったのに、今とは別の豊かさがあった昭和…ってイメージですかね?

ところで、ごく私的には、昭和レトロと呼べるのは昭和30年代まで、或いは東京オリンピックまでって感じなのだけど…
…少し前にあるテレビを見ていて、ふと、人間死ぬ時には、それまでの人生の全てが走馬灯のように駆け巡ると言うけれど、自分が死ぬ時には、一体どんな光景が思い浮かぶのだろう? …というような事を考えていたらですね、

やっぱりスペイン、中でも初めてスペインに行った1980年頃の光景とか、浮かんで欲しいよな…と思ったのです。

それから四国の田舎町で過ごした子供の頃、つまり昭和30年台の幾つかの情景とか?

そんな事をとりとめなく考えてたら、初めて行った頃のスペインは、いわばスペインの昭和だったのではないか? と思ったのです。

フランコの死後、民主化の道を歩み始めたばかりの80年代のスペインは、ある意味戦後日本と似たところがあったのかもしれない。

…そしてEC加盟から1992年のバルセロナ・オリンピックとセビージャ万博の開催に向けて、スペインとスペイン人たちは猛ダッシュで走って行ったのだ…
そして知らない内に、自分も一緒に走ってた…

フラッシュバック・スペインは、そんなスペインとスペイン人を、たまたまその中に居た日本人の目から捉えた記録です。

スペイン人、今の日本人がもしかして、昭和のどこかに置いて来てしまった大らかさのようなもの?を、しっかり持ったまま走ってたような気がするんですが…」

2015年に書いたabout 2 の追記より:

「日本社会は重厚長大から軽薄短小へ…なんて事が言われた時期がありましたよね?
スペインで読んだ日本の週刊誌とかに出てた気がするので、90年代?
日本経済がバブルからバブル崩壊に向かって突き進んでた頃??

これ又ごくごく私的な図式化なのですが、

昭和: 戦後の復興期からの経済発展、日本人はまじめで勤勉、欧米に追い付こうと一生懸命で、逆に言うと日本は欧米よりも遅れていると感じていた。テレビでは海外ドラマも結構やってて、アメリカのホーム・ドラマなんかは一種「理想のファミリー」みたいな感じがした。洋楽のヒットチャート番組もあった。若者には海外への憧れと好奇心があったと思う。社会の価値観は「重厚長大」。

平成: 日本は経済大国となって、日本人は日本の製品や技術が欧米にひけを取らない、むしろ優れていると感じるようになった。海外を見倣わなくても、日本は日本、日本人は日本人でいいんじゃないか? 欧米の文化だって、日本に居ながらお金で手に入れる事だってできる。豊かで住み易い日本が一番! 海外ドラマも洋楽のヒットチャートも日本のテレビからは消えてしまい、旅行がしやすくなった半面、本当に海外の文化を知ろうとする事は少なくなってたのではないか? 社会の価値観は「軽薄短小」。

軽薄短小」がもてはやされる社会は、言って見ればオタメゴカシな社会なのではないか?
真に優れたものを造りだすかわりに、50歩100歩の製品に枝葉末節の付加価値をつけて売ろうとする。
真の才能を見出して育てようとするかわりに、アイドルを作り、ブームに乗せて売ろうとする。

昭和レトロでもてはやされる時代は、実は未だ貧しく、衣食住も整っていなかった。
戦前に建てられた田舎の社宅では、夜になると天井裏をネズミが走り、雨漏りがし、台風が来る前には窓に木を打ち付けて飛ばないようにしなくてはいけなかった。(でも屋根は本瓦で壁は塗り壁だったけど)
教育は一遍的で受験戦争が激しく、好きな事を職業にするなんて考える余裕はなかった。
小学校の給食には脱脂粉乳が出て、希望者はお金を払って肝油を貰い、身体検査では寄生虫が発見される子もいた。

平成の小学校の給食は、食べた事ないけどリッチですね。
何もかも衛生的になって、寄生虫は少なくなったかもしれないけれど…でも昔はアレルギーの子なんて聞かなかったのに、今は色々あって大変そう。
家もこぎれいになって一見お洒落だけれど、新建材は長持ちしませんね。
教育は多様化して、大学を出て一流会社に就職するだけが人生ではなくなったみたいだけれど、一方で好きな芸術やスポーツを大学という場で勉強すれば職業にできるというような、一種の幻想を売ってるところがあるような気がするのは私だけ?

とまあ色々ありますが、日本がそういう昭和から平成への道を突っ走ってた期間を、偶然スペインで過ごした事になる。
昭和なスペインで、しかも衣食住、特に食と住は日本の昭和よりずっと豊か! いや今の日本よりも豊かな国で20年余りを過ごした後で日本に帰って来たら、軽薄短小のバブルが壊れて、失われた10年が結局20年になんなんとする平成の真っただ中だったわけです。

その後の日本では、東日本大震災を経験して、平成的価値観みたいなものが一転したかとも思われたけど、意外に根強く残っていたり、喉元過ぎればで戻って来てるものもあるような気がする今日この頃…

そしてスペインでも、最近は一種の平成化が進んでるんじゃないか? と思うような事をチラホラ見聞きするような気がする今日この頃…

ふたつの国が昭和だった頃を思い出してみるのも、いいかもしれないという気がして来た…」

抜粋終わり。

(失われた20年は更に伸びて、失われた30年などという表現も聞かれるようになった2022年、フラッシュバック・スペインはおしまいにしました。)
お・し・ま・い (2022年10月)