伝説の時代

年末になって色々整理しなくちゃと気持ちだけは焦ってる日々。
そうだ、ラグビーの記事を書く前にほぼ書き終えていたのに、ラグビー日本の活躍で後回しにした記事を、せめて年が変わる前にアップしよう…
と思ってたら昨夜、NHKの年末特別番組で、日本ースコットランドの「死闘」を取り上げてくれて、暫し感動を反芻。
中でも、後半の死闘の中で、日本の選手もスコットランドの選手も、こんな試合は滅多に経験できないという感動のような?不思議な感覚を感じながら闘っていたというのが、非常に興味深くて印象的だった。

というところで以下、その試合の前にほぼ書き終えてた記事。

「記憶の断捨離」の最後に書いたナショナルのトランジスタ・ラジカセは、留学前に「短波で日本語放送も聞けるラジオを持って行くといい」と言われて買った物だった。
実際にスペインで日本語放送を聞いた記憶はない。
主に音楽テープを聴くのに使っていたけれど、3時間位で電池がなくなる。
当時のスペインの生活費の中では、電池は割高だったような気もする。
日本でも百均なんてなかったから、今よりは高かったかもしれない。

日本から持って行ったテープの中には、友達が餞別にくれた渡辺貞夫のテープも入っていて、スペイン人の友達に聞かせると、彼らは「これはサルサだ」と言った。

スペイン語版のジーザス・クライスト・スーパースターのテープを貸してくれたのは、語学学校で知り合ったブラジル人女性のコーラだった。

留学を終えて日本に帰る前に、何かスペイン音楽のテープを買って帰ろうとデパートに行った。
ミュージック・テープの売り場にはセール品のワゴンがあって、その中に、いつもそこを通る度に気になっていたテープがあった。


ミュージシャンの名前も知らなければ収録されてる音楽も知らない。
なのに『時の伝説』というタイトルとカバー写真の横顔がどうも気になる。
毎回買おうかどうか迷って結局止めていたのを、この際だからと買って帰ってトランジスタ・ラジカセで聴いた。

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すぐさまデパートに戻って、同じ歌手の別のテープを2本程買い足したけれど、それらは普通のフラメンコ。
正に『時の伝説』だけが、どうしても買わなくてはいけないテープだったのだ。

少し前に、タイトル曲の『時の伝説』をテレビに出て歌っているリアル・タイム・ビデオを YouTube で見つけた。

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衣装その他、当時の雰囲気が何とも言えずFacebook でシェアしたら、同時代にスペインに居た人からコメントで教えて貰ったビデオは『伝説の時代』。

www.rtve.es


『時の伝説』という曲(と、そしてアルバム)のタイトルを逆さにしたタイトルのドキュメンタリー。
カマロンという早逝した天才フラメンコ歌手について、そして『時の伝説』がどのように生まれたのか、フラメンコの新しい波を作り出した他のミュージシャン達の演奏ビデオや、カマロンと同時代を生きたミュージシャンとのインタビューなどで綴られたテレビ番組を録画したもののようだ。

ちなみにこのドキュメンタリーも上のテレビ出演の演奏ビデオも、画面右下に『2』と出て来るので、La 2、つまりスペイン国営テレビの第2チャンネル、日本で言えばNHK教育のようなチャンネルの番組だったと思われます。

ドキュメンタリーでは、『時の伝説』に収められた「革新的」フラメンコが、当初は批判されて受け入れられなかったという話も出て来る。

だからワゴン・セールになってたんですかね?
(『時の伝説』の発表は79年という事なので、正に留学の直前、留学時代を通じて、いつもワゴンで目にしていたような気がする。)

記憶の断捨離をしていて思い出したのは、85年にマドリッド日系企業で働き始めた時は、未だ上のトランジスタ・ラジカセを使っていたという事。

日本製のコンピューターを扱っていたその会社では、スペインの220Vの電圧を日本の100Vに変えるトランスを現地発注する事があると知ったのは、入社後どれくらいだったか?
会社のエンジニアに、トランジスタ・ラジカセ用のちっちゃいトランスを、その業者に作って貰えないだろうかと相談した。
そうすれば電池ではなくて、アダプターをコンセントに繋いで聞く事ができる。

一瞬考えた彼からは、こんな答が返って来た。
スペインでも家庭用電圧は少し前まで110V、今でも未だ220Vに変わってない地域も残っているし、220Vを110Vに変えるトランスは、特別注文しなくても普通に荒物屋で買える。その方が安いし、電圧も10Vの差ならまあ許容範囲だろう…

ほんとだ! 留学時代には未だ110Vの家も多かった気がするし、この当時でも、デパートの家電売り場などでは 110V用と220V用を区別して売ってたんじゃないだろうか?
少なくとも家電製品を買う際には、事前に電圧はどっちかって聞かれたような気がする。
そうか、110V用の変圧器で大丈夫なんだ!

荒物屋でゲットした小さいトランスは500ペセタ位だったろうか?
それをラジカセのアダプターに繋いで…ミニコンボを買った88年位までは使ってたんだ…

ずっと110Vに繋いでたせいか、それとも経年劣化か、最後は音が割れて来てたような…

そんなこんなに思いを馳せて気がついたのは、あの時代が正に「伝説の時代」だったんだという事。

フランコの死後、スペイン社会に新しい変化が生まれた時代。
それまでは規制又は抑圧されていた文化が沸き起こった時代。
家庭用電圧が110Vから220Vに切り替わって行った時代。
そしてスペインがECに加入して、その後ヨーロッパ統一へと突き進んで行った時代。
それらは自分にとっても伝説の時代だったのだと。